良い打者の条件は何?P/PAが示す好打者とは

 P/PAという指標をご存じだろうか。これはある打者が打席(PA)ごとにどのくらいの球数(P)を相手投手に投げさせているかを表す指標で、数値が大きくなるほど打席での「勝負が遅い」打者であるということになる。よく言われるように野球は、どんなによい打者でも6割から7割は凡退をするスポーツである。この多くの凡退の打席をいかに内容のあるものにできるか、というのは打者にとって重要な資質の一つだろう。この1打席ごとの内容を比較的簡単にある程度評価することができるのが「P/PAの良し悪し」なのだ。1打席あたりの被投球数が多いということは、たとえ打ち取られたとしても投手に多くの投球をさせているということであり、相手投手を疲労させるという意味で少なくとも多少のダメージは相手に与えているということになる。この点においてP/PAが大きい打者は他の一般的な指標、例えば打率や打点などが優秀ではないにしてもチームにとって有益な選手となっているのである。
 ただこのP/PAが大きくなるということは一つの弊害を生む。それが三振率(何打席に1回の割合で三振をするか)の増加だ。相手投手に多くの投球をさせると、当然のこととしてストライクを奪われる回数も増加するので、必然的に三振の数も増える。三振はその時点でアウトが確定するという意味で相手にとって一番安全なアウトの取り方であり、攻撃側にとっては「何も起こりえない」という意味でできるだけ避けたい打席結果だ。できるだけ三振は避けたいが、簡単に打席を終わらせることも避けたい。P/PAを良化させるためにはこのジレンマを乗り越える必要があり、これは打者にとって難しい問題である。そこで今回は各打者のP/PAと三振率の相関をみることで、それぞれの打者がこの問題にどのように対処しているのかということを見ていきたい。

 表1は昨シーズンの公式戦で100打席以上を記録した選手のP/PAと三振率の相関関係を表したものである。縦軸は三振率で上に行くほど数字が大きくなる、つまり三振をしにくい打者であることを示し、横軸はP/PAの値で右に行くほど被投球数が多い、つまり「打席での勝負が遅い」打者であることを示している。前に述べたように基本的にP/PAが大きくなると三振率は悪化するので、全体としては右肩下がりの傾向が現れることになる。
表1
 さてこの中で最も極端な傾向を示した打者が銀次(楽天)だ。銀次のP/PAは100打席以上の打者185人の中で最低の3.31と昨年最も「勝負の早い」打者だった。その結果三振率は18.63と、こちらは185人中最高の数字となった。P/PAが両リーグ最低ということで今回のテーマでは評価しづらい結果となってしまっているが、早い勝負の結果として最も優秀な三振率を記録していることは、「三振しない」という確固たる打席での姿勢が結果として表れているという点で素晴らしい打者ということはできるだろう。
 逆に最も優秀なP/PAを記録したのは今シーズン西武から巨人に復帰した脇谷である。昨シーズンのP/PAは4.59という数字でこれは銀次より1打席あたり1球以上多い数字だ。これはどのくらいの差なのか?昨シーズンの数字では脇谷は打席数が銀次より82少なかったものの、被投球数は76上回っていた。1打席あたり1球とはいえシーズンを通すとかなりの数字になることがお分かりいただけるだろう。脇谷は両リーグ最高のP/PAを記録しつつも三振率は100打席以上の打者の平均三振率5.79とほぼ同じ数字に止めており、総合的に内容の濃い打席でのアプローチを実践できていたシーズンだった。
 そして注目をしていただきたいのがグラフで右上のゾーンにプロットされている選手たちである。このゾーンはP/PA、三振率がともに良好なことを示しており、ここには先に挙げた「P/PAを良化させると三振率が悪化する」というジレンマをある程度克服した打者がプロットされているのである。中でも総合的に最もこの2つの要素を両立させていたのが田中賢(日本ハム)だ。昨シーズンは185人中10位となるP/PAを記録すると同時に、11位の三振率を記録、両リーグで最も「簡単に打ち取られない上に三振もしにくい」打者だった。もともとは年間100三振を2度記録したこともあり、さほど三振しにくい打者というわけではなかったが、年齢をかさねるごとに三振率が良化、その上で優秀なP/PAはキープするという理想的な進化をしてきた打者でもある。
 田中賢のほかにもグラフ上では9人の打者の名前を挙げた。中にはシーズン安打記録を更新した秋山や西岡、角中といった首位打者経験者の名前があり、一般的に「好打者」のイメージを持たれる打者が多いのが特徴である。その意味最も注目したいのが日本ハムの近藤だろう。昨シーズン残した数字は、高卒4年目、レギュラー定着1年目にして非常に優秀な打席でのアプローチが達成できていることを示しており、今後の成長に非常に期待が持てる選手だ。

 最後に逆のゾーン、つまり「打席での粘りはなく三振もしやすい」ということを占めるゾーンに含まれてしまった選手を紹介しておきたい。表中の5人の選手は最も左下よりにプロットされてしまった選手たちだ。やはり打撃に課題がある捕手の名前が多くなる結果が出た。中でも松井雅(中日)はP/PAが185人中165位、三振率が178位と全く振るわない数字を残してしまった。その結果打率も100打席以上の選手ではワーストとなる.135に終わり、出塁率も.179だった。いかに捕手といえどもここまで打てないと厳しいものがある。昨シーズンは開幕スタメンに起用されるなど期待も大きい選手だがまずは打席でのアプローチから改善する余地があるだろう。また井手(DeNA)はプロでの年間四球数が最多でも9という球界でも有数の四球を選ばない打者である。打席での勝負が早いことは悪い面ばかりでもないが、昨シーズンは自己最多の4本塁打を放つ一方で、三振率も自己ワーストに近い3.64と早い勝負のよさを全く生かせなかった。主に打撃面での貢献が期待される選手であるだけにこの点での改善に期待したい。