得失点差で振り返るプロ野球、巨人はなぜ勝てた?

2014年も残りわずか、プロ野球もオフシーズンの真っただ中。球界の動きも落ち着きだしたこの時期に改めて2014年のシーズンを振り返ってみたい。

■得失点差から見えてくるもの

12球団のシーズンを振り返るにあたって今回は得失点差に注目をした。野球は相手より点を多く取れば勝利できるスポーツ。唯一の目的である勝利のためにはより多く点をとり、相手にできるだけ点を与えない必要があり、プレーヤーもそのためにプレーをしている。勝利のためのプレーがうまくいっているのか、否か。それを最も端的に表す成績がチームとしての得失点差だ。もちろん短いスパンでは得失点差でチーム力を計ることは難しい。しかし1シーズンという長いスパンで見れば、そこにはやはりチームの力が表れてくるもの。今回はチームの得失点差の推移とピタゴラス勝率*によって想定される貯金数を、実際の貯金数と比較することで12球団の今シーズンがどのようなものであったかを振り返ってみたい。
*ピタゴラス勝率とはチームの総得点と総失点から想定される勝率を求める計算式
総得点の二乗*(総得点の二乗+総失点の二乗)で求める

表1

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■セ・リーグ 不調でも負けなかった巨人、広島は鬼門で転落

表1はセ・リーグ6球団の得失点と貯金の推移を表したもの。右の軸は得失点差、左の軸は勝ち越し(負け越し)の数を示している。また得失点差のグラフは同時に想定される貯金数も表しており、その値を左軸で示している。例えば巨人の最終成績は貯金が21、得失点がプラス44となっているが、得失点グラフの左軸の値は10から11。これは巨人の最終的な得失点差から想定される勝ち越し数は10~11であることを示す。
4月で目立ったのは広島の躍進と、DeNAのつまずきだ。昨シーズン終盤からチームに勢いの出ていた広島は今シーズンも開幕から好調を維持、得失点差もプラスを記録していたが、そこから想定されるよりもさらに多くの勝利を挙げていた。これは大きく成長した中田廉、そしてFA移籍した大竹の人的補償として獲得した一岡の予想を上回る活躍で安定し接戦をものにしていた、つまり
少ない得点差でも勝てていたことが大きいと考えられる。一方オフシーズンの補強もあって例年にない期待を集めていたDeNAは開幕から低迷、4月終了時点での得点100はリーグワースト、失点147もヤクルトに次ぐ5位と投打ともに不振、とくに主砲ブランコの離脱の影響は大きく得失点差はマイナス47で11の負け越しを喫してしまった。
5月に入ると広島と首位を争っていた阪神のチーム状態が低下する。4月は破壊力抜群の打線で勝利を重ねていたが、打線の調子が落ちるにつれ得失点もマイナスに転じてしまい、この月はリーグ最低の月間負け越し6で終えた。阪神打線に代わって状態を上げたのはヤクルトだった。大ブレークした山田、雄平を中心とした打線は25試合で145得点(1試合平均5.8)という猛威を振るった。ただ投手陣の脆弱さという弱点を抱え、月間の勝ち越しはわずかに2つ、この時点で通算の得失点差はプラスに転じていたのだが、勝率のほうは5割に届かなかった。
交流戦の始まった5月中旬以降は多くのチームの状態が悪化した。阪神、DeNA、ヤクルトが苦戦し、そして交流戦前まで首位をキープしていた広島も例年同様に苦戦した。リーグ1位だった得失点差も急落し、6月中旬にはマイナスに転じてしまった。交流戦によってここまで顕著に成績が悪化するのには必ず理由があるはず。この長年の課題を克服しない限り悲願の優勝は果たせないだろう。
ほかのチームが苦戦する中、一気に上昇したのが巨人だった。6月に入り亀井が復帰したことをきっかけにチーム力が上向き、交流戦の得失点差は12球団トップのプラス24を記録、頭一つ抜け出す形となった。このまま一気に独走もあるかと思われた巨人だがその後は苦戦が続く。7月、8月の2か月間で貯金0と一進一退、ただしこの期間の得失点差をみると7月はマイナス31、8月がマイナス10と試合結果以上に悪い数字になっている。グラフからも読み取れるように、この得失点差どおりの結果が出ていれば勝率は5割前後まで落ちていたことになり、順位も大きく落としていたはず。チームの状態が上がらないこの苦しい期間に負けを先行させなかったことがリーグ制覇につながった。
対照的にずるずると転落してしまったのが中日。7月までは勝率5割前後、得失点差もゼロ前後と可もなく不可もない成績で推移していたが、8月に投打ともに調子を落とし成績も低迷、得失点はマイナス49、球団記録を更新する月間20敗で負け越しも13に達してしまった。最終的にこの月以外は安定した戦いができていただけに、ここを持ちこたえられなかったのがクライマックスシリーズ進出を逃す要因となった。1年目の谷繁監督にはチーム状態が落ちた時のしのぎ方という課題が残る監督初シーズンとなった。
4月に出遅れたDeNAはその後もチーム状態が上がらないながらも負け越し10前後で踏みとどまっていた。そして6月にグリエルがチームに加わると打線が上向き、その後は勝ちが先行、5月から8月の成績はリーグトップ(46勝39敗)で3位以上も窺える位置まで盛り返すことに成功した。しかし勝負の9月にはまたしても打線が沈黙、結局は昨年と同じ5位でシーズンを終えることになった。最初と最後につまずいたシーズンを教訓に来シーズンは一層の飛躍を期待したい。
9月に入った時点で巨人、阪神、広島は2.5ゲーム差以内の混戦、ここで一気にスパートしたのが巨人だった。広島、阪神との直接対決9試合で8勝1敗、勝負どころで一気に力を発揮し瞬く間に大勢を決してしまった。9月以降の得失点はプラス51と圧巻の数字、優勝を争った阪神がマイナス7、広島はマイナス10と息切れしたのとはあまりにも対照的な戦いぶりだった。及ばなかった阪神、広島は長年の課題を今シーズンも克服できなかったといえるだろう。阪神は貯金こそキープしたものの1年を通じての得失点差はマイナス、9月に失速する悪い伝統も払拭することはできなかった。広島は年間では得失点差でプラスをキープ、しかし勝負の9月以降はマイナス10で4つの負け越しと大事なところで力が出せなかった。得失点差は野村監督初年度のマイナス141から年々良化し昨年はプラス3で今年はプラス39、チーム力が強化されたことは間違いないだけに今後は如何に勝つかという点が課題となるだろう。緒方新監督がこのチームをどう引き継ぐのかに注目をしたい。

表2

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■パ・リーグ 2強が突出、下位3球団は浮上のきっかけつかめず

次にパ・リーグ6球団をみていきたい(表2)。パ・リーグは4月からソフトバンク、オリックスの2強が抜け出した。オフシーズンにも積極的な補強を行ったソフトバンクは開幕から安定した戦いを繰り広げ、4月は得失点差31で5つの勝ち越し、5月もプラス12で4つ勝ち越しと着実に白星を重ねた。そのソフトバンクを上回ったのがオリックスだ。とくに4月は投手陣が絶好調、エースの金子が2度の完封、西は月間5勝を挙げチームをけん引、4月終了時点で貯金11と見事なスタートダッシュを決めた。この2チームは交流戦でもソフトバンク2位、オリックス3位と好調を維持し完全にほかの4チームを引き離してしまった。両チームとも想定とほぼ同じ程度の貯金を積み重ねており、勢いだけでない実力の伴った戦いぶりで下位チームのつけ入るすきはなかった。
他の4チームは苦戦した。前年のリーグ覇者楽天は開幕カードで3連勝したがその後は勝ちが続かず徐々に低迷、大エース田中の抜けた穴は大きく、それを埋めることを期待された新外国人たちは軒並み機能せずと苦しい戦いとなった。とくに田中離脱による失点の増加を得点力の強化でカバーする、という考えのもと鳴り物入りで入団したユーキリスが怪我もあってまったく働くことができなかったのは大きな誤算となってしまった。月間の負け越し数は5月から8月まで計ったように4つで推移、9月以降は勝ち越したが、得失点ではマイナスと真にチーム状態が上向くことはないままシーズンを終えてしまった。
そしてその楽天に開幕3連敗を喫した西武も低迷した。伊原新監督を迎えてのシーズンだったが、打撃陣の構成に失敗、投手陣を援護できず接戦をものにできないケースが目立ち、4月は得失点差マイナス26で負け越し10、5月に入っても黒星のペースは変わらず6月4日には早々に伊原監督の辞任という事態に至ってしまった。田辺監督代行就任後は大きく負けることもなかったが、借金が0に近づくこともなくシーズンを終えた。
ロッテは開幕から毎月得失点がマイナスで推移した。FA移籍しエースとして期待された涌井の調子も上がらず、唐川も成績が伸びず、打線も4番打者が決まらずと投打の軸が定まらない状態が続いた。その中でも6月までは勝率5割弱を維持していたが、7月2日からの6連敗で借金が10に到達すると以降は浮上のきっかけすらつかめなかった。
そして終始安定しながらも成績が伸びなかったのが日本ハム、一年を通じて貯金5と借金5の間を行き来し続けた。得失点も年間を通じて変化が少なく調子の波のないシーズンだったといえる。若手の大谷、西川らが順調に成長するなど決して悪いシーズンではなかったが、大きな連勝をする勢いもなかった。12球団で最もチーム力どおりの結果が出たチームといえるのではないだろうか。
ソフトバンクとオリックスで繰り広げられたマッチレースは最後の最後まで続いた。それまで高いレベルでの争いを繰り広げていた両チームだったが、9月に入るとともに失速。ただその原因は異なっていた。ソフトバンクは9月以降チーム状態が落ちた。8月末時点でチーム打率は.285、防御率は3.11と高いレベルにあったが9月は打率.256、防御率4.00と低迷、その結果得失点もマイナス25と月間初のマイナスに転落、必然的に勝てなくなり貯金は目減りしていった。一方のオリックスは9月以降も得失点差はプラス8、それでいて2つの負け越しを喫してしまった。これは救援陣が力尽きたことに原因があるといえるだろう。とくに守護神の平野佳が月間5敗と大誤算、最終的にソフトバンクとの差は勝率でわずか2厘。どこか1試合でも救援に成功していればと考えずにはいられない。

■日本一に相応しかったソフトバンク、来季のセ・リーグは混戦?

巨人、阪神、広島で争ったクライマックスシリーズではリーグ2位の阪神が1位の巨人を下し日本シリーズに進出した。今季のセ・リーグは各チームの浮き沈みや、得失点差から見ても確固とした”強いチーム”は存在しなかった。2連覇の経験も生かしてリーグを制覇した巨人も8月までは抜きんでた力があったわけではなかった、結局阪神を圧倒するだけの戦力はなかったということだろう。一方のパ・リーグは超短期決戦のファーストステージでオリックスが日本ハムに敗れた。一年間安定した力を出していたオリックスだがエースでの初戦を落とすという劣勢に追い込まれては苦しい。リーグ制覇を逃したつけは大きかった。9月に失速したソフトバンクだが、どのチームでも大抵年に一度は調子が落ちるもの。この調子の下降期にオリックスが歩調を合わせて失速してくれたことは望外の幸運だった。調子を取り戻したポストシーズンではチーム力で上回る日本ハム、阪神を退けて見事に日本一を勝ち取った。得失点差からみればそのチーム力は球界トップクラス、日本一に相応しいチームだったといえるだろう。