よくある赤字エピソード

これぞ金言!「木を見て森を見ず」~几帳面なヤツほどかかりやすい茂みに潜むわな~

編集原稿を点検~校正し、内容の正誤を訂正する校閲現場にあって、最も大切な心構えとされる金言が「木を見て森を見ず」。小事にとらわれ大事を見落としてしまう、そんな悔しくも恥ずかしい経験を持たない校閲者は、恐らくいないはずです。もちろん筆者も…。

さて今回のエピソード。現場は、いかなる「森」を見落としたのでしょう。

「第〇回全国センバツ高校野球(〇日・甲子園)の組み合わせ抽選会が〇日、行われた」。ある日のスポーツ紙面、とあるメーン記事の書き出し。途中を省き、記事は「各地区予選を勝ち抜いた代表校がしのぎを削る」うんぬんと、テンポよく文字を連ねていく。

ひと目でセンバツ甲子園の記事とわかります。高校野球原稿の校閲は、誤字の訂正、表記統一はもちろん、校名に選手名、試合記録の確認と、やりがいある作業。今回のタイトルになぞらえれば、いわば「うっそうとした森」。赤字たちが茂みに隠れていそうです。

あるある。まず、必ず出てくる赤字。「斉藤」を「斎藤」に直す。これ、同じようでも全く違う名字って知ってました? 次は「松商学園・新井」を「荒井」に訂正。続いて「神戸広陵」は「神戸弘陵」と。「学法石川(石川)」はひどい! 福島代表ですね。

よしよし、快調。校閲者は、ハンドブックや資料を見ながら作業を進めます。学校名表記も、一字一句なめるように調べていきます。鹿児島実業→鹿児島実、桐生第一→桐生一(=当時の表記。現在は第一でOK)。まあ、赤字とはいえないですけどね。

日頃から几帳面な担当者ならでは。選手の学年から身長・体重、利き腕まで、きっちり合わせないと気が済まないのでしょう。「選抜か、センバツか」まで気にする執着ぶり。

ところが、です。皮肉にも、えてして、こんな細かい性分の持ち主の方が、どでかい赤字を見落としやすいもの。そもそも、記事は「センバツ高校野球」。そう「選抜」というだけあって「各地区予選」など最初からないんです。大赤字でした。

木を見て森を見ず。ふと顔を上げ、全体を見渡せば、その場で拾えた赤字なんですが。

よくある赤字エピソード

 

思い込みも「コイのうち」なんてね ~あまりに思いが強いと真実も見えなくなる~

校閲は、原稿の間違いを正すのが商売。赤字の見落としは恥とばかり、間違い探しに躍起となります。ただし「見つけなきゃ」「直さなきゃ」の思いが強すぎると、時に失敗をやらかしてしまうもの。「これは絶対間違いのはずだ」と、思い込んでしまったがためのミスがそれ。

日常生活でもよくある失敗経験「思い込み」。これが今回のテーマです。

プロ野球ドラフト会議。甲子園を沸かせた金の卵に大学野球のスター選手、社会人の実力派まで、今年も多くのタレントが球界入りを決めました。筆者のひいき球団も、なかなかの収穫だったようで…。ルーキーの活躍が今から楽しみです。

指名権を獲得し、当たりくじを掲げる球団代表。最後の最後に意中球団から指名され、感極まる少年の表情。恩師や母親、友人の祝福と激励。悲喜こもごもの中、祭りは終わります。

大願成就。夢をかなえた選手には、学校関係者や後援会などからお祝いの差し入れが届きます。ある年のドラフト記事から。「〇〇や届いたばかりの鯛の洗いが並んだテーブルに着くと、コーラを手に乾杯を…」。お祝い会場の風景ですね。どうでもいいといえばそこまでながら、「鯛」は「タイ」とするのが表記のルール。校閲者は訂正作業に入ります。

ところが、既に「思い込みのワナ」にはまっていました。彼がしたのは「鯛」を「コイ」に改悪する訂正ミス。確かに鯛の旬は春というけれど…。もしかして、指名球団の広島(カープ=鯉)に引っ張られた? 皮肉にも、スポーツ紙などでは、広島を指す場合に「鯉」を使えるケースもあるんですが。「コイの洗い」であるはずだの「思い込み」。痛恨の敗着!

おまけのエピソードは「白魚の踊り食い」を「シラウオの踊り食い」と訂正してしまった事例。酒好きで、この一品に目のない担当者は迷わず直したそうですが、結論は「シロウオ」が正解。ただし「シロウオ」なら、せめて漢字は「素魚」と書くべきでした。記者も悪い。

「思い込みも恋のうち」とかいいます。「最近あの子と目が合うんだ」「昨日も何か言いたそうだった」「あっ、今目を伏せた」「これって絶対…」。大概、その恋は成就しません。

よくある赤字エピソード

新聞表記のカタカナ語は非常識!?~ウインナーコーヒーはソーセージ入り?~

本気と書いてマジと読む。漫画や小説では、意図的に漢字の当て字や旧字、異体字、活字にできない造語まで、よく使われますね。これぞ「表現の自由」。でも、不特定多数向けに正しく誤解なくニュースを伝えるべき新聞記事では、そうはいきません。

文字や語句の使い方に「用字用語」なる統一基準が必要となります。「表現の不自由」というほどではないにしても、これが意外と面倒くさいんです。

今回は、用字用語エピソードから「カタカナ語」の変なルールについて。

書店の辞書コーナーを見ていると、ひっそりと「用字用語〇〇」といった「なにこれ?」的書物が置かれています。これは通信社・新聞社が発行した「用字用語集」。中でも、標準とされるのが共同通信社刊「記者ハンドブック」です。各社とも、日本新聞協会の基準を基に編集してあり、若干の違いはあっても、似たり寄ったりでしょう。

さて本題。

ある日、後輩に注意をしました。「おい、これ間違ってる」。原稿には「ウインナーコーヒー」の語句が。後輩「?」しばし沈黙「あ、『ウィンナーコーヒー』ですよね」。

残念! 違います。用字用語のルールでは、原音で「ウィ、ウェ、ウォ」の音は「ウイ、ウエ、ウオ」と書くのが原則。ここは「ウインナコーヒー」が正解で、同様に「ウィンナーワルツ(またはウインナーワルツ)」も「ウインナワルツ」と表記します。

さあ、いかが。なぜ「ウインナー」でなく「ウインナ」なのか? そこが不可解。また、地名は別解釈で「ウィーン」は「ウィ」を用いることになっているとあっては、はてさて何が何やら。ちなみに、皆さんご存じのソーセージは「ウインナー」が正解。

ほかに、皆さんが日頃よく耳にする「クローゼット」は「クロゼット」、「アタッシュケース」は「アタッシェケース」が表記のルール。

「うっそだあ! そんなふうに誰も言わないよ」と叫びたくなりますね。「新聞表記の常識」は「一般人の非常識」なんでしょうか。

よくある赤字エピソード

え、ホント?「校閲は原稿を読むな!」~霜降りの高原肉にはサシが入っているか~

校閲とは、編集される原稿を点検~校正し、内容の正誤を調べ訂正する作業。事実誤認や勘違い、言葉の誤用から不適切な表現まで、校閲者は記事に潜む間違い(=赤字)探しを生業とします。そんな校閲現場ならではの「よくある赤字」エピソードを紹介。

第1回は「校閲は原稿を読むな!」です。

冒頭で「原稿を点検」とか書いておいて、なんじゃそりゃ。ですよねえ。まあまあ、そこはコラムの先を読んでみてください。

「霜降りの高原牛肉」。う~む、うまそう。自然豊かな草原で育った牛さんのアレ、すっすっと脂身のサシが入ったアレですね。なんて思った人は、校閲現場では、はい、アウト~!

これ、よくある赤字事例です。たったこれだけのセンテンスに3箇所も赤字が。文字入力の際に、担当者が地名に由来する固有名詞を思い込みで間違えたことから、いかにもありそうな牛肉が生み出されたというわけ。

まず、この牛肉は霜降りではありませんでした。うん? いや、本当は霜降りなのかな? 赤身か? それはともかく、元の原稿では「霧降り高原」の「牛肉」。「霜降り」の「高原牛肉」ではなかった。

じゃあ「霜」を「霧」に訂正し、「の」の位置を変えればOK? いえ、もう1つ。元原稿にも間違いがあったんです。「霧降り高原」がそれで、正しくは「霧降高原(きりふりこうげん)」でした。日光市の北方、女峰山東山麓に広がる有名な高原です。

「原稿を読むな」とは、原稿の文章からイメージを抱き眼前の誤字を見落とす危険性を戒めたもの。ここでは「あー霜降りかあ」と脳裏においしそうな肉を思い浮かべた瞬間、「霧」の字が見えなくなってしまいがち。だから、くれぐれも原稿は「読むな」と。

かくして印刷工程に渡る最終原稿は「霧降高原の牛肉」と直し事なきを得ました。途中の訂正までは校正の仕事。そして最後の「り」を削除する訂正こそが校閲業務の本分というわけ。

よくある赤字エピソード