日本語は変わっていく ~辞書が認めて市民権得るまでは赤字~

表記ルールに従い、原稿を手直しする校閲者。記者からすれば会心の記事に水を差す「このクレーム野郎!」ってところでしょうか。気持ちは分かります。特に、世間一般で使われる表記をそのまま書いたのに実は誤用とか指摘された日には、立腹もいたしかたないかと。

ということで、今回は「変わりゆく日本語」のエピソード。

今週末は中山大障害で、翌週が有馬記念。いよいよ年の瀬ですねえ。いや、競馬の話。クリスマス? 何をおっしゃる、筆者は日本人です。とんがり帽子に白ヒゲつけて、すしを土産に「うーい帰ったぞ」って、そんな無国籍行事に興味ありません。え、相当勘違いしてる?

有馬記念。一年を締めくくる最高峰レース、幾多の名馬が激戦を繰り広げてきました。筆者の記憶では、1990年の有馬記念「オグリキャップの引退」が印象的ですね。

「笠松競馬から中央に移籍、無名馬を迎え撃とうと腕ぶすエリート馬相手に、不屈の走りで挑み、打ち負かした希代の名馬」とは、いかにも古めかしい引用。今の記者なら、もっと軽快に書きますか。オグリは初戦を圧勝するや重賞6連勝、その後も強敵との激闘を展開し、クリスマスの夜も残業で働くおじさん世代から雑草軍団の星として絶大な人気を博します。

17万大観衆の声援を背に見事花道を飾った90年有馬は、去りゆく怪物の独壇場でした。

同じ年の天皇賞直前「〇日には増沢が乗り、圧巻の1週前追い切りを消化」。オグリの追い切り記事ですが、厳密には赤字あり。「圧巻」は、とりわけ優れた事柄を切り取る表現。

「2冠馬のゴールドシップの強さは説明もない。とにかく菊花賞が圧巻で」(2012年の有馬記念関連記事)のように使うなら、セーフなんですが。

とかく最近は、こんな用法が目につきます。「ダルビッシュが圧巻の投球」「圧巻の決勝進出」などなど。「圧倒的な」「圧勝で」という意味合いでしょうか。「みんな使ってるじゃん」の記者には悪いけど、大半の辞書が認めるまで「赤字」として扱うのが校閲の職務。

まあ、日本語は時代とともに変わっていくもの。みんなが良しとすればそれでいいんですが。「独擅場(どくせんじょう)」が、いつしか誤字の「独壇場」にすり替わったように。

よくある赤字エピソード