よくある赤字エピソード

「面倒くさい洋数字と漢数字の使い分け」~ 「春一番」と「木枯らし1号」くらいは簡単に理解できるんだが~

ひたすら記事の間違いや誤字脱字の発見に躍起となる校閲業務。作業を通じて、自然と日本語の理解や知識も深まり、語彙(ごい)も増えていくわけで、これぞ裏方稼業の醍醐味(だいごみ)といえましょう。ただ、中にはそもそも誤記でもない上に、校閲担当自身、納得のいかないまま赤字訂正を行わなければいけない場合もあります。というわけで、今回は「面倒くさい洋数字と漢数字の使い分け」をテーマに愚痴ってみましょうか。

球春到来。スポーツにおける球技は数あれど、春の喜びを込めてこう呼ぶのは野球くらいのもの。いかにもグラウンドの雪どけを待ちかねていた、といった感じですが、それって雪国だけでは? 関東以西のいわゆる強豪校なんぞ、年中無休でカキーン、カキーンと季節感なし。オフシーズン、温暖な地でキャンプを張るプロ野球のためにある用語ですかね。そちらも、最近は室内練習場やドーム球場であったりして。今や「球旬」くらいが適当か。

昨春のプロ野球オープン戦。「春一番にやられた。ロッテ対楽天は1回裏2死一、二塁の場面で強風によりノーゲームとなった。試合中に風速14㍍を計測」と、記事は春の珍事を伝えています。立春以降、最初に吹く強い南寄りの風を「春一番」と言います。「春1番」としないのは何となくわかりますよね。春二番なんて言わないから。では、晩秋から初冬の間に初めて吹く北寄りの強風「木枯らし」の場合は? 「木枯らし1号」とします。2号、3号もあり得るのですが、気象庁は発表しないのだとか。

多くの新聞表記で、数量や順序など示す際は洋数字、慣用句などは漢数字を用います。上の例では「1回表」「一、二塁」がそれ。イニングは洋数字で、ベースは本塁含め漢数字。三振は3振とせず、フォアボールは四球。え、アウト数はなぜ洋数字かって? だから悩ましい。新聞社によっても表記が分かれます。「その試合で左飛が風に戻され、満塁の走者一掃打となった」と、一掃を1掃としないように理屈が簡明なら苦労はないのですが…。

ところで「春一番の陽気の中、チームメートとともに汗を流した」とか「ガッツあふれる○○が春一番を吹かせた」とか、春一番はいいイメージで使われることが多いようです。

日本海で低気圧が急発達することによって生じるこの強風。災害を起こしそうなときは注意報や警報が発表されますが、もともと海難事故を引き起こし、船乗りの間で「春一番」と恐れられたのが気象用語になったとか。さて、2月4日は立春か。球春…忙しくなるのは嫌だなあ。

よくある赤字エピソード

「大した赤字でなくともダメなものはダメ」~「鏡割り」と口にする人は多いけど、和の心で言い直しを~

誤表記を見逃さないのが職務なら、記者に表記ルールを守らせるのも、校閲の仕事。日常生活の言い間違えなら聞き流せても、冠婚葬祭の席での失言は、笑って済まない場合があるもの。紙面編集も同様です。いくら煙たがられても、赤字を訂正せずにはいられない。

ということで、今回は「大した赤字でなくともダメなものはダメ」というエピソード。

成人の日。晴れて大人の仲間入りをした若者を祝う日は、「元服の儀」が行われる小正月に合わせて、もともと正月15日に定められました。それが1月第2月曜日に変更され、以来、ますます元服の意義が薄れたか、この日独特の高揚感が見られなくなってきた気がします。

とはいえ、スポーツ紙にとってネタに困らないのがこの日。会場で暴れる御仁、飛躍を誓うスポーツ選手の話題、新成人を見舞う不幸な交通事故ほか。ことに芸能界。アイドルが飲酒解禁をアピールしたり、新成人タレントが各地便乗イベントに出演したりと華やかなこと。

かなり前の芸能記事。D☆DATEの堀井新太は、新曲発売イベントで「この日に向け猛特訓したバック転を約1万人のファンの前で成功させ盛り上げた」。堀井は「めっちゃうれしい。(日本を)元気にします!」とガッツポーズしたとか。それで元気になれば言うことなし…というか、堀井って誰だ? いやいや。誰かさえ知らず取り上げた「芸能人音痴」の筆者が悪い。実は、以下の話題へ誘導しようと、無理やり適当な記事を拾ってきただけなんです。

西武時代の秋山選手(前ソフトバンク監督)の記事。「ホームランを打ち、バク転でホームインしたことで有名だが…」。知っている人は、すぐ分かる。堀井が披露したのはバック転、秋山選手のはバック宙。「ッ」の入らないバク転、バク宙も赤字扱いです。なんですか、「うちの田舎では爆宙」? なぜ「爆」か知らないが、方言じゃあるまいし。ダメなものはダメ。

はい、次! 成人式など祝いの席に、よく酒樽が登場しますよね。昨年の衆院選でもそうでした。テレビ画面に、勢いよく木槌を振って樽のふたを割る当選シーンが流れました。

「日本ハムは札幌市内のホテルで優勝祝賀会を行った。栗山英樹監督をはじめ、コーチや選手らが出席」。これ一昨年の記事か。写真には「優勝祝賀会で鏡割りする栗山監督」とある。

ここは「鏡開きをする」が正解。めでたい席で「割る」など忌み言葉を避けるのが日本人。成人式会場でやんちゃをやらかすお兄さんにも、こんな和の心を伝えたいけど…ま、無理か。

よくある赤字エピソード

「いただけない旬の赤字」~初練習も山の神も…「元旦」早々けちをつけて恐縮ですが~

明けましておめでとうございます。

本年も重箱の隅をつついてまいりますので、よろしくお付き合いのほどを。

元旦に届く年の始めの朝刊に、赤字が残っていては末代の恥。校閲担当は気合を入れて前夜、大みそか作業に臨みます。臨みます…臨みましたが…結果は…。いや、よしとこう。

本題に入りましょう。年明け早々のエピソードは「いただけない旬の赤字」。

一年の計は元旦にあり。さあ新年。仕事に勉強、ダイエットに就活…今年こそと決意を新たにするのが日本人。でもね、今年「こそ」って、旧年はダメでしたと認めているわけ? まあ除夜の鐘で煩悩も消えたはずだし、ここは心機一転、改めるなら「今でしょ」と。だから前年のことは「いいじゃあ、ないの」ってことで。「ダメよ~、ダメダメ」とは誰も言いますまい。

さて、スポーツ界。初詣の優勝祈願とか、初練習とか。元日紙面をにぎわす、今年こその「〇〇選手、元旦始動」。心意気や良し! ただ校閲担当は、それが本当に元旦なのか気が気じゃありません。元旦は元日の朝のこと。「朝もはよから」以外は、元旦とは言えないので。

某記事に「塾や予備校などは『元旦返上』で講習や試験を実施」うんぬん、試験は10時~昼に行い、その後で願掛け祈願をすると書いてある。ほら出た。「元日返上」が正解でしょ。

ところで、筆者が好きな年明けイベントといえば「箱根駅伝」。今年から名所「函嶺洞門」が通行禁止でコース変更、あの山の神・柏原竜二の記録が参考扱いとなるのは寂しい限り。

2012年、東洋大柏原(当時)は4年連続で箱根の山を制すと、前年の東日本大震災を受けて「みんながトップでつないでくれて、涙が出そうでした」。なぜか。山の神は、被災地の故郷福島に向け「僕が苦しいのはたった1時間ちょっと。福島の人たちに比べたら全然苦しくなかったです」と、使命感を帯びて走ったから。記事は「年が変わるからこそ、忘れてはならない。忘れさせないために箱根路を走るランナーたちがいる」と続く。いいねえ、感動的。でも…惜しい! 「年が変わり」は「替わり」の方がよかった。まあ、年末年始、年度替わりによく出る用字用語の赤字は、いわば常連だからなあ。え、元旦とか年替わりとか、正月早々細かいことでけちをつけるな? 失敬な。これでも松の内だから遠慮して2例だけにしたのに。年明けに限らず、その時季特有の赤字は多い。旬の赤字と言うには、しゃれにならないが。

よくある赤字エピソード

日本語は変わっていく ~辞書が認めて市民権得るまでは赤字~

表記ルールに従い、原稿を手直しする校閲者。記者からすれば会心の記事に水を差す「このクレーム野郎!」ってところでしょうか。気持ちは分かります。特に、世間一般で使われる表記をそのまま書いたのに実は誤用とか指摘された日には、立腹もいたしかたないかと。

ということで、今回は「変わりゆく日本語」のエピソード。

今週末は中山大障害で、翌週が有馬記念。いよいよ年の瀬ですねえ。いや、競馬の話。クリスマス? 何をおっしゃる、筆者は日本人です。とんがり帽子に白ヒゲつけて、すしを土産に「うーい帰ったぞ」って、そんな無国籍行事に興味ありません。え、相当勘違いしてる?

有馬記念。一年を締めくくる最高峰レース、幾多の名馬が激戦を繰り広げてきました。筆者の記憶では、1990年の有馬記念「オグリキャップの引退」が印象的ですね。

「笠松競馬から中央に移籍、無名馬を迎え撃とうと腕ぶすエリート馬相手に、不屈の走りで挑み、打ち負かした希代の名馬」とは、いかにも古めかしい引用。今の記者なら、もっと軽快に書きますか。オグリは初戦を圧勝するや重賞6連勝、その後も強敵との激闘を展開し、クリスマスの夜も残業で働くおじさん世代から雑草軍団の星として絶大な人気を博します。

17万大観衆の声援を背に見事花道を飾った90年有馬は、去りゆく怪物の独壇場でした。

同じ年の天皇賞直前「〇日には増沢が乗り、圧巻の1週前追い切りを消化」。オグリの追い切り記事ですが、厳密には赤字あり。「圧巻」は、とりわけ優れた事柄を切り取る表現。

「2冠馬のゴールドシップの強さは説明もない。とにかく菊花賞が圧巻で」(2012年の有馬記念関連記事)のように使うなら、セーフなんですが。

とかく最近は、こんな用法が目につきます。「ダルビッシュが圧巻の投球」「圧巻の決勝進出」などなど。「圧倒的な」「圧勝で」という意味合いでしょうか。「みんな使ってるじゃん」の記者には悪いけど、大半の辞書が認めるまで「赤字」として扱うのが校閲の職務。

まあ、日本語は時代とともに変わっていくもの。みんなが良しとすればそれでいいんですが。「独擅場(どくせんじょう)」が、いつしか誤字の「独壇場」にすり替わったように。

よくある赤字エピソード

経験は校閲現場でも生きる~草野球少年だってセオリーを心得る~

筆者の小学校時代、男子が放課後に集まってする遊びといえば野球でした。女子の遊びは知りません。悪ガキよろしく「女なんか」と強がって、まともに話しかけることもなかったので。その後も同様、中学、高校と「男どアホウ一直線!」の寂しい青春を送りました。

いきなりですが今回は、校閲現場で経験がものをいうというエピソードを。

スポーツ新聞の花形といえば、やはり野球記事。今や、人気でサッカーに凌駕(りょうが)された感もありますが、まだまだ筆者と同じ「男どアホウ」たちが野球人気を支えています。

スポーツというもの、経験のあるやなしやで眼前に繰り広げられるプレーへの理解度がかなり違うもの。失礼ながらマイナーと称される競技であれば、ルールからして「へー、そうなんだ」。それが野球となると、いわゆる「通」なる御仁がうじゃうじゃとおいでになる。

「何やってんだ。2アウトだろ、走れ」とか「あちゃー、そこから真ん中勝負にいくかねえ」と、この方々は手厳しい。相手が天才イチローだって、容赦なしの何様ぶりです。

前置きはこれくらい。ある日の現場。プロ野球の記事を見て「ん?」。

「1死二、三塁、内野ゴロの間に2点目を狙うも、遊撃○○の好送球にあえなく本塁憤死」とあります。後輩「送球ではなく、ここ返球ですね」。まあ、そうなんだけど。それより「エトキ(=絵解き、記事用写真の説明文)を見てみな」と私。やっぱり!

エトキには「1死一、三塁…」とあります。野球デスクに確認すると、これが正解。

「よく分かりましたね」元サッカー少年の後輩には気づけまい。でも、男どアホウの中には、1死二、三塁からゴロでホームに突っ込みアウト、なんて暴走だろと思うやからもいるということ。一、三塁なら「ゲッツー(併殺)崩れ狙いでGO!」がセオリーです。

まあ、足に自信のあった筆者、草野球ではよくセオリー無視で暴走したものです。

校閲現場で、経験がものをいった実例。ただ私の場合、逆にサッカー記事では、プレーの意味がよく分からずに、クロスの右と左が間違っていても、スルーしていますけど。

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